swatanabe’s diary

ラノベ創作、ゲーム、アニメ、仕事の話など。仕事はwebメディアの仕組み作り・アライアンスなど。

ストーリーを動かすために疑問を使う手法について考える

近況
  • 4月27日で星のカービィ28周年とのことで、久しぶりにアドバンスSPと初代のソフトを引っ張り出して遊んでみました。一緒にきらきらきっずとかコロコロカービィとか鏡の大迷宮とかいろいろ出てきて、大変です。
  • 「三体」読み終わりました。とても面白かったです。創作的には、ストーリーの止め方・進め方を見直す機会になりました。


     *

 

というわけで「三体」読み終わりました。知的好奇心を刺激されるワクワク感、先の読めないハラハラドキドキ感がいつまでも絶えることなく、とても面白かったです。

ここで内容にはふれませんが、かわりにちょっと思ったことでも。

 

ラノベの新人賞に応募し始めたばかりのころ、何度か「ストーリーが動いていない」という主旨のレビューを頂いたことがあります。もう少し具体的に書くと「所々に差しこまれた設定の説明などが話を止めてしまっており、ストーリーのテンポが悪くなっている」といった意味合いです。

この「ストーリーが動いている」という感覚、最初はどうにもピンときませんでした。作品がどういう状態にあれば、ストーリーが動いていると言えるのでしょう?

 

その感覚をなんとなく掴んだのは、ニート時代の初期。創作の勉強がてら往年のRPGをプレイしまくっているときでした。

RPGは、乱暴に言ってしまえば、自分が操作しているパートと操作していないパートに分けられます。後者はセリフやムービーなどのパートで、前者はそれ以外です。

あるとき、自分の中でゲームのストーリーが進んでいると感じるのは、前者の「自分が操作しているパート」だと気づきました。後者はストーリーの補足=設定や背景などの解説が中心であり、ここがあまりに長いとストーリーは止まっていると認識、より具体的には「早くプレイさせて」と思っていました。

 

     *

 

この経験を境に、筆者は「ストーリーが進んでいるかどうかは、読み手に大きく依存するのでは」と考えるようになりました。換言すると「読み手の "先を読みたい" という推進力が機能している」とでも書きましょうか。

RPGの場合、その推進力は「ダンジョンをクリアする」といったプレイング目標や「ヒロインを助ける」といったストーリー目標が担保してくれます。

では、小説における推進力はどんなものでしょうか。

 

まず、ゲームにおけるプレイング目標やストーリー目標を、小説にそのまま踏襲するのは難しいと仮定しました。というのも、ゲームの推進力の源泉は、プレイヤーの「やりたい」という活力だと考えられるからです。

これは言い換えれば、ゲームの推進力は「プレイする」という行為が担保しており、その行為が存在しない小説には転用できないということです。

ですが、さらに突き詰めれば、小説において読み手が「プレイする」ことができれば、同じ効果を担保できるのではないかとも思いました。

では「読み手がプレイする」とは、いったいどういう状態が考えられるでしょうか。

 

筆者は、これを「疑問」によって担保できるのではないかと考えました。

これは推理小説を想像すれば、わかりやすいと思います。謎が提示されれば、誰でもその答えが気になります。

この疑問と推進力の関係には、いろいろな形が考えられます。ラノベ的にわかりやすいのは、

  • 謎が提示され(疑問)、その答えが知りたい(推進力)という関係性
  • どん底の主人公がどうやって逆境を打破するのか(疑問)気になる(推進力)という関係性

このあたりでしょうか。

 

     *

 

こうした疑問を作品の冒頭で提示すれば、それが推進力を喚起し、読者が作品を読み進める動力となると考えられます。

「三体」でこれに該当するのが、冒頭で登場する紅岸基地のパラボナアンテナの役割や基地そのものの存在目的、ゴースト・カウントダウンなどですね。筆者の中では、ゴースト・カウントダウン、中でも全宇宙が主人公・汪淼へ向けてカウントダウンを発したシーンが最後まで強烈に印象に残りました。なぜあんなことが起こったのか知るために、同作をずっと読んでいたと言っても過言ではありません。

同作はその後も、疑問が立て続けに提示されます。正確には、タイトルにもなっているVRゲーム「三体」が、どんな目的で作られたのか不明のまま定期的に登場するので、常に疑問が提示されるようになっています。

凄いなと感じたのは、同作の疑問の重さといいますか、バランスといいますか。具体的に書くと「新しい疑問が前の疑問を上書きしてしまうことがない」点でした。

同作は筆者にとって、謎が量的に多い作品だったのですが、最後までいずれも失念することなく読み進められました。最終盤、謎の解明が進められるのですが、そのときに「あれ? そんな話あったっけ・・・?」とまったくなりませんでした。

 

     *

 

ちょっと話をずらしますが、疑問の提示の仕方には大きく3つあると思っています。

  1. 大きな疑問を最初に動かし、最後にその答えを明かす。途中で関連する小さな疑問を提示しつつ、その答えを順番に明かしていき、
  2. 小さな疑問を提示→それが解消されたかと思ったら提示される大きな疑問→それが解消されたかと思ったら提示されるさらに大きな疑問と、段階的に進めていく
  3. そもそも作品の大目的を見えにくくする

「三体」は読んだ感じ、1 な印象でした。大きな疑問に該当するのが、汪淼が解決協力を要請された科学にまつわる不可思議なあれこれの事件、関連する小さな謎がゴースト・カウントダウンや科学フロンティアの正体などなど。

2 は、本棚を眺めていてもパッと思いつかなかったのですが、貴志祐介さんの「新世界より」とか近いかなぁ、という印象です。後半へ近づくにつれて 1 に近くなりますが、作品全体で見ると 2 かなぁ、と。

3 も、なかなか思いつかないのですが、コーマック・マッカーシーの「ザ・ロード」とかこのタイプかなぁと思います。荒廃した世界の中で生きる親子の生き様を追う作品ですが、この2人の旅の目的はあまりはっきりしません(南へ向かうというだけで)。また、作品世界がどんなところなのかも、ほぼ説明がありません。しかし、だからこそ気になるという作用が働いています。書いてて思いましたけど、森博嗣さんの「スカイ・クロラ」シリーズなども近いでしょうか。

 

1 について。

こちらで大事なのは、大目的を常に見失わせない配慮でしょうか。そのため、なるべく大きなインパクトを持った疑問を提示して、読者の興味を喚起する必要があると思っています。

ただ、ここで重要なのは「スケールの大きな疑問」を提示すればいいという話ではない点です。大事なのは「想定読者層の強い関心を引ける疑問かどうか」ですね。

たとえば「三体」における大目的、科学にまつわるあれこれの事件の一つとして、世界中で科学者が次々の謎の自殺を遂げていることが挙げられます。これ自体はスケールの大きな謎ですが、そうした展開に興味がない読者の琴線には触れません。

この大目的の疑問に何を設定するか、最も重要なこの点が最も難しい点でもあるように感じます。

 

2 について。

こちらで難しいのは、ストーリー構成かなと思います。小さな疑問の解消と同時に新たな、そしてより大きな疑問を提示しなければならないので、バランスの良い疑問を設定する発想力や段階的にストーリーへの関心を高めていく構成テクニックなどが必要になります。

また大目的が見えないため、読んでいると「そもそも主人公たちは、なにをしているのか?」分かりにくくなる恐れもあります。そのため疑問をバランス良く段階的に配置するだけでなく、それぞれの疑問の解消を通じて少しずつ大目的を明かしていかなければいけません。

ただ、うまく構成できると、謎めいたストーリーが最後できれいに収束するカタルシスを味わうことができるので、個人的にお気に入りの型です (そして、だいたい話を細かく作りすぎて、いつも梗概で失敗します。大目的が曖昧になるので、要約しにくいんですよね。笑)

 

3 について。

これは、作者の創造力に大きく依存する気がします。そもそもそういう作品世界を構築できるかどうか。そのため、少なくとも筆者は手を出さないようにしています。ぜったい書けないので。

あと表現力にも強く依存する気がします。筆者が「ザ・ロード」で最も好きなのは、荒廃した灰色の世界観があまりにもリアルに描かれている点なのですが、それを生み出しているのは、作者の卓越した表現力と感性 (特に作品世界の雰囲気を作る力) だと感じます。「スカイ・クロラ」シリーズも、言葉や言い回しの選び方、表現方法 (空戦シーンは一語・連続改行で描写するなど) が、あの独特の世界観・雰囲気を生み出していると感じます。

独特の作品世界を築く創造性と、それを魅力的に見せる表現力、この2つに大きく依存する作品群、言い換えれば極めて感性的な (=再現性が担保しにくい) 作品群が 3 と言えるかもしれません。

 

     *

 

もちろん、これはひとつの動かし方に過ぎません。たとえば、大目的を疑問ではなく、純粋な目標 (大魔法を倒す、など) にする方法もあります。そのほうがわかりやすいですし、書きやすいと思います。あくまでも疑問を読書の推進力として用意する場合の話です。

 

なんかうだうだ書いてたら長くなってしまったので、とりあえずこんなところで止めたいと思います。読み直してないので、あとでぜったい書き直します。

眠いので、寝ます。