swatanabe’s diary

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牛の命を守るために磁石(カウマグネット)を飲んでもらう話

仕事の備忘録です。

 

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カウマグネットという道具があります。cow(牛)のmagnet(磁石)という名前のとおり、大きな磁石です。牛に飲んでもらいます。

 

 

牛は金属などを口に入れてしまう習性がある

牛には金属など光るものを舐めたり、口に入れたりしてしまう習性があります。そのため、誤って飲んでしまった釘などが胃壁を突き破ってしまった、などの事故が稀に起こります。

鳥取県の倉吉家畜保健衛生所が、牛の消化管内異物について調査を行ったところ、198頭中18頭から異物が確認され、その67パーセントが金属(金属の72パーセントが針金)だったそうです。

 

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こうした事故を防いでくれるのが、先ほどのカウマグネットです。これを胃に入れておくと、牛が飲み込んでしまった金属を磁石が絡め取って、内臓が傷つかないように守ってくれます。

 

牛には胃が4つありますが、カウマグネットを入れるのは第二胃です。牛が飲み込んだ金属の大半は第二胃に集まるからです。

ここは食べたものを再び口へ戻す反芻を行う胃で、心臓が脈打つように拡張と収縮を繰り返しています。そのため飲み込んだ金属類が胃の動きに合わせて大きく動き、胃の内壁を傷つけたり、他の胃へ流れていってしまったりする可能性があるのです。

また第二胃は横隔膜を隔てて心臓と接しているため、胃壁を突き抜けた金属が心臓を傷つけてしまい、牛が死亡してしまうといった事故も起こりかねません。

 

カウマグネットは主に乳用牛で使われます。肥育牛の場合、一般的には放牧しないのと飼育期間が短いため、入れないこともあります。

ちなみにロープなどの大きな異物は、第一胃に留まるため、第二胃まで流れてくることはまずありません。これは牛の胃の容量が、第一胃(胃全体の約80パーセント)と第二胃(同・数パーセント)で大きく違うためです。

 

カウマグネットの効果

カウマグネットは1950年頃から実験的に使用されており、その効果は当時から認められていました。

先の倉吉家畜保健衛生所の調査を拝見すると、異物が確認された18頭のうち、金属異物が摘出されたのは12頭(67パーセント)。このうちカウマグネットを使用していた牛は、半分の6頭でした。

 

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この12頭について死因と金属異物の関連を調べたところ、カウマグネットを胃に置いていなかった牛は、全頭が飲み込んだ針金によって亡くなってしまいました。一方、カウマグネットを飲んだ牛で、死因が金属によると判断されたのは、わずか1頭だけ。磁石で絡め取れない銅の針金を飲んでしまったのが原因でした。

  • カウマグネットなし:全頭が針金により亡くなる
  • カウマグネットあり:6頭中1頭だけ針金で亡くなる
  • 不明:死因に金属異物が関連していると見られるケースは半数

調査対象は少ないですが、カウマグネットが金属異物による死亡事故を予防してくれている様子が見えてきます。

また、カウマグネットは基本的に事故の防止目的で使いますが、創傷性胃炎など飲み込んだ金属が原因の病気を治療する目的で使用されることもあります。カウマグネットを入れて、第二胃にたまった金属を吸着したり、内壁に刺さった金属を抜いたりして、症状の沈静化が図れます。

 

カウマグネットの取り出し方

カウマグネットを取り出すときは、別の強力な磁石で引き寄せて取り出します。鎖状のものがついた磁石を第二胃に入れてカウマグネットをくっつけ、鎖を引っ張って外に出します。

ただ、第二胃の中は外からは見えないため、カウマグネットの正確な位置は視認できません。そこで方位磁石を使います。第二胃のある近くで方位磁石を持ち、針が振れ方でだいたいの位置を確認します。

また取り出し用の磁石も、牛に飲んでもらった後の場所が分からないため、同じように方位磁石で現在地を確認しながら、第二胃へ導いていきます。 

ただ、カウマグネットは基本的には第二胃に置きっぱなしで取り出しません。そのため永久磁石とも呼ばれます。

 

参照