swatanabe’s diary

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食中毒の基礎知識(種類・原因・流行時期など)

引き続き、仕事の備忘録。今回は、食中毒について。

WHOの報告によると、2010年に世界中で食品を介した病気にかかった人は、約6億人。当時の世界人口は約70億だったので、およそ10人に1人です(死者は41.8万人)。このデータから、汚染食品による被害(食中毒など)がいかに身近なものか、よくわかりますね。

 

 

感染型食中毒と毒素型食中毒の違いと、発症に必要な原因物質の量

そんな食中毒は、感染型と毒素型の大きく2種類に分けられます。両者の主な違いを一覧にすると、下の表のようになります。

 

  感染型食中毒 毒素型食中毒
代表的な原因物質 O157(腸管病原性大腸菌)、ノロウイルス、カンピロバクターなど 黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌など
食中毒にかかる流れ 生きた細菌やウイルスを経口摂取し、それが体内で増殖して一定数を超えると引き起こされる 細菌が食品中で増殖し、そこで作った毒素を経口摂取、体内で吸収して引き起こされる
食中毒の原因 細菌やウイルスそれ自体 細菌が作る毒素
細菌・ウイルスの増殖場所 人の体内 食品の中など人の体外
細菌・ウイルスの生死と食中毒の関係 細菌・ウイルスが不活性なら食中毒は起こらない 毒素があれば食中毒にかかる(細菌の生死と関係なく)

 

感染型食中毒は、「生きた細胞やウイルス」が「体内で増殖する」ことで発症する食中毒です。一方、毒素型食中毒は、「細胞が作った毒素」を「体内に取り込み、吸収してしまう」ことで発症します(毒素型食中毒の細菌たちは、増殖するとき一緒に毒素を作ります)

主な原因物質の発症に必要とされる摂食菌量(食べる菌の量)は、次のとおりです。

 

 原因物質 食中毒の種類

発症に必要とされる摂食菌量

O157 感染型 11〜50個
カンピロバクター 感染型 400〜500個
サルモネラ 感染型 10万〜100万個
(菌の種類によっては10〜100個で感染することもある)
腸炎ビブリオ 感染型 10万個
(1万個の発症率は0.001%未満)
ノロウイルス 感染型 100個
黄色ブドウ球菌 毒素型 細菌が食品1グラムあたり10万個まで増殖した時の毒素量

農林水産省「農林水産省が優先的にリスク管理を行う対象に位置付けている危害要因についての情報」より引用

 

感染型は、食べた細菌数が基準となります。たとえばO157による食中毒は、11〜50個以上のO157を摂食したときに発症するとされます。

一方、毒素型は、食品中で作られた毒素量が基準になります。黄色ブドウ球菌による食中毒の場合、菌が食品中に10万個以上/gに増えた時、発症に必要な量の毒素量になるとされます。

 

新鮮な食品でもリスクが高い食中毒がある

食中毒の予防対策としてよくいわれるものに、

  • 調理や食事の前にしっかり手を洗う
  • よく火を通す
  • 菌やウイルスが増えないうちに、なるべく早めに食べる

などがあります。そしてこれらはすべて正しい対策です。

 

ただ、実は新鮮な食品でもリスクが高い食中毒もあります。 

たとえば、上の表で見たように、O157やカンピロバクター、ノロウイルスは1,000個未満の菌数を摂食すると発症する可能性があります。1,000と聞くと大きな数に聞こえるかもしれませんが、細菌・ウイルスの世界では、これはとても少ない量です。

 

新鮮な食品のほうが、古い食品より付着している細菌・ウイルスの数は少ないです。そのため食中毒にかかるリスクは低いといえます。

しかし、そもそも発症に必要な摂食菌量が少ないO157やカンピロバクターによる食中毒の場合、新鮮な食品でも発症リスクがあります。

ただ、ほとんどの原因物質は、食品をしっかり加熱すれば死滅します(目安、中心温度75度以上・1分以上の加熱)。逆に生食は危険ですので、ぜったいに止めましょう。

 

一方、毒素型食中毒は、古い食品ほどリスクが高まります。時間がたてばたつほど、多くの毒素が作られるからです。

 

夏に多い細菌性食中毒と、冬に多いウイルス性食中毒

食中毒にはもう一つ大事な分類があります。細菌性とウイルス性の違いです。

細菌性食中毒は細菌が原因で起こる食中毒、ウイルス性食中毒はウイルスが引き起こす食中毒です。

 

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両者の主な違いは、流行時期です。

たとえば、O157による食中毒(細菌性食中毒)と、ノロウイルスによる食中毒(ウイルス性食中毒)の感染・検出報告件数を月別で見てみましょう。

まずこちらがO157の週別・検出数です。

 

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次にこちらが、ノロウイルスの週別・検出数です。

 

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きれいに逆転していますね。

また食中毒事件の発生状況を見ても、細菌性食中毒は夏に、ウイルス性食中毒は冬に多くなっています。下のグラフは直近5年間(2014〜2018)に発生した食中毒事件を、各月でどのくらい発生したのか病因物質別に集計したものです。

 

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たとえば、O157による食中毒は、全体の32.4パーセントが8月に発生しています。

ご覧いただくと、細菌性食中毒は、ウェルシュ菌のように夏に落ち込むケースもありますが、おおむね6〜9月に膨らむグラフを描きます。一方、ノロウイルスの食中毒は12月から3月あたり、つまり冬にかけて多く発生しています。

 

食中毒は夏に多いとは限らない

よく「食中毒は夏に多い」といわれますが、それは年によって異なります。

たとえば、2016年の食中毒事件の発生数を、月別に見てみましょう。

 

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ご覧のように、12月が111件でトップ。そこから3月の102件、1月の98件と続きます。夏も多く発生していますが、全体的に暖かい季節より寒い季節に発生が増えています。

では、2017年はどうでしょうか。

 

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今度は一転、夏から秋にかけて多く発生しています。9月の114件が最多で、そこから10月の102件、8月の99件と続きます。真冬の2月にも8月と同じくらい発生していますが、この年は全体的に暖かい季節の発生が増えました。

しかし、翌2018年は次のようなグラフを描きます。

 

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4月が162件でトップ。そこから5月の149件、9月の137件と続きます。 2018年は夏でも冬でもなく、春に最多を記録しました。この年はアニサキスという寄生虫が猛威を奮った影響で、寄生虫(グラフの黄緑の部分)による食中毒事件が多く報告されています。

このように食中毒事件の発生状況は年によってまったく異なります。1年を通して油断しないようにしましょう。

 

加熱で殺菌できない食中毒細菌もいる

多くの食中毒は、食品をしっかり加熱すると防げます。

ですが、中には加熱しても死滅しな細菌がいます。ウェルシュ菌というのが、そのひとつです。

ウェルシュ菌には、次のような特徴があります。

  • 熱に強い(100度・1〜6時間の加熱でも死滅しない)
  • 偏性嫌気性細菌である(酸素があると生存が困難な細菌)
  • 発育に適した温度は、43〜45度
  • 加熱した料理を室温に放置しておくと増殖する危険がある
  • 細菌に汚染されても、食品の見た目があまり変わらない(汚染に気づきにくい)

ウェルシュ菌は熱にとても強く、O157などが死滅する加熱調理条件(中心温度75度・1分以上の加熱)でも生き残ります。これはウェルシュ菌のような芽胞形成菌(がほう・けいせいきん)と呼ばれる細菌ならではの特徴です。

また加熱によって食品中の酸素がなくなるため、好気性細菌(酸素がないと生きられない細菌)も生存が困難になります。ですが、ウェルシュ菌は嫌気性のため、酸素が少なくても生きられます。むしろ競合する細菌がいなくなり、食品中の栄養をより多く摂取できるため、より増殖できる環境になります。

 

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そして加熱調理した食品を室温に放置すると、食品内の温度が徐々に下がり、ウェルシュ菌の大好きな43〜45度あたりまで下がると増殖が一気に加速します。ひと晩寝かせたカレーが原因で食中毒が発生することがありますが、これは寝かせている間に増殖したウェルシュ菌が主な原因とされます。

ウェルシュ菌による食中毒を予防する上では、加熱殺菌(寝かせたカレーをきちんと加熱して温め直す)や、小分けにして冷蔵するなどの対策が必要となります。

このように加熱殺菌が通じない、むしろ加熱調理した食品中のほうが、より増殖しやすい環境である細菌もいるので注意してください。

 

参照