swatanabe’s diary

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クラウゼヴィッツ『戦争論』vol.009|将帥はいかなる場合も原理原則に忠実でなければならない

《参考図書》

 

《今話で取り扱う範囲》

  • 軍事的天才(第1篇・第3章|p.98〜p.111)

 

     ◇

 

将帥はいかなる場合も原理原則に忠実でなければならない

前回のコピペですが、戦争の雰囲気を構成するものには4つの要素がありました。危険、肉体的・精神的困苦、不確実、そして偶然です。将帥はこれらに囲まれながらも、勇気と知性、忍耐力、そして沈着をもって成果を追求しなければなりません。

このとき、将帥の決断や行動は4つの様相に分かれるとクラウゼヴィッツは言います。それは「遂行力」「頑強」「堅忍」そして「情意および性格の強さ」です。

では、一つずつ見ていきましょう。

 

1:遂行力

要は行動力です。これは知性が動因となって発揮されることもあれば、情意が動因となって発揮されることもあります。ただ、大きな遂行力が発揮される上では、後者は絶対に欠かせないとクラウゼヴィッツは言います。

この情意が動因となるというのは、やる気を想像すれば分かりやすいと思います。やる気がないと、何もする気が起きませんよね。

クラウゼヴィッツは、この情意のうち最も強烈なものとして「功名心」「名誉心」を挙げます。過去にはこれを求めすぎて(欲に目が眩んで)とんでもない行動を起こした将帥もいましたが、だからと言って、これらを悪徳として排除してはいけません。それでは軍隊を駆動させるエネルギーを失ってしまいます。

将帥が強い功名心そして名誉心を持っているからこそ、彼は自らの軍隊をさながら土地のように思い、これを懸命に耕し、種を撒き、豊穣に努めようとするとクラウゼヴィッツは言います。

 

ところで、一方の「知性が動因となる」とは、どういうことでしょうか。これについては本文中にも詳細がなく、単に「知性が動因となることもある」としか書かれていません。ただ、おそらく「幅広い知識があることで、より選択肢が増えて、行動を起こしやすくなる」という意味合いではないかと思われます。知識が多ければ、それだけ多くの手段を手にしているわけですから、当然、遂行力は大きくなります。

 

2:頑強、堅忍

この2つについてはまとめて語られています。クラウゼヴィッツによる両者の定義は次の通りです。

  • 頑強:敵の抵抗の強さにめげない意志の抵抗力
  • 堅忍:闘争の持続に堪え得る意志の抵抗力

どちらも情意と知性のいずれからも生じますが、後者については知性に大きく依存します。なぜなら、戦争が長引けば長引くほど戦争の計画性が高まるからです。ここは少し分かりにくいので、噛み砕きましょう。

まず、戦争が長引くほど計画性が高まるのは、なんとなく理解いただけるのではないでしょうか。シンプルに「計画が長くなる」ということです。二泊三日の旅行と、七泊八日の旅行とでは、後者のほうが色々計画を練らないといけません。そして戦争が長くなるほど、それに耐える時間も長くなるわけですから、将帥や兵士はどんどん疲弊していきます。この肉体的・精神的な疲弊に耐える力が堅忍です。

 

では、なぜ堅忍は知性に大きく依存するのか。

計画が崩れたら、不安になります。思い通りにいかなかったわけですから当然ですね。言い換えれば、この不安や、これによって生じた危険を打破するためには、計画を修正する必要があります。この不安に情意(勇気など)で対抗することはもちろんできますが、それだけでは闘争の持続に耐えられません。きちんと「どうやったら状況を打開できるか」を考える必要があります。そのためには「知性」が必要です。

情意はそのための補助、つまり知性をきちんと働かせるための補助として考えると分かりやすいでしょうか。どれほど優秀な人でも、動揺しっぱなしでは頭がまともに回りません。

 

3:情意の強さ(性格の強さ)

そもそも「情意の強さ」とはなんでしょうか。

まず勘違いされやすいのが、これが「激情」すなわち「感情の強さ」を意味するという解釈です。ですが、ここでいう情意の強さは、そういうものではありません。これはむしろ「いかなる激情の嵐のなかにおいても、なお知性に随順する心の強さ」です。2で書いた通りですね。

しかし、これは知性が情意の激しさを抑えこむような強さでも、情意それ自身を撲滅しようとする強さでもありません。クラウゼヴィッツが言うには、これは、激しく燃える情意に対して「心の均衡を保つように作用する別個の情意」が存在することを意味し、その別個の情意の強さこそが、ここでいう情意の強さです。

クラウゼヴィッツはこれを次のように要約します。

「これは人間性に対する尊厳にほかならない。知性という人間に許された高貴な精神的諸力に随順するように自らを保つ、言い換えれば動物的な振る舞いに堕すことがないように、その情意によって自らの心の均衡を保つ」

 

情意には、おおよそ次のようなものがあります。

 

1. 不活発、粘着質な情意:甚だしく非活動的な気質

  • 積極的動因(功名心などから生まれるやる気)を欠き、非活動的であるという欠点を持つ
  • 一方、激情に駆られて心の均衡を失い、部隊を壊滅させる危険がないという利点も持つ

 2. 豊かだが平静な気質:活動的ではあるが、その感情の強さが一定のラインを超えない気質

  • 些細な刺激でも活動的になれる利点を持つ
  • 一方、大事や大事件を前にすると傍観・同情するばかりで行動を起こさない欠点を持つ
  • 独立独行して知性を発揮し、ことに当たろうという気概はない

3. 刺激を受けやすい気質:一瞬にして極めて活動的になるが、しかしそれが長続きしない気質

  • 戦争においては、勇気・功名心という軍事的方向性を持たせる限り、下級においてなら役に立つ(下級の仕事は、特攻など一瞬で終わるものがほとんどだから)
  • 生来的に自制できないわけではなく、自らの情意を自制する訓練を与えるなど時間的余裕がないだけのことがほとんどである

4. たくましい気質:なかなか活動的にならないが、ひとたび火がつくと、誰よりも強く、長くつづく気質

  • 絶大な力をもって巨大な量のものを動かすのに最も向いている気質、つまり将帥に向いている気質
  • 第一種の気質同様、積極的動因(功名心などから来るやる気)や激情を欠いているため、なかなか活動的にならないという欠点を持つ
  • しかし、第三種の気質と違い、激情で吾を失うこともないという利点を持つ

 

さて。強い情意とは、どれほどの激情に駆られようとも、それによって心の均衡を失わない心の強さでした。これは言い換えれば、性格(の強さ=情意の強さ)とは、要は「自分の確信を堅く持ちつづける特性」にほかならないと言えます。ころころと自分の立場や意見を変えるような人は、性格のある人とは言えません。

しかし、戦場における様々な事象が情意に影響して、それによって自分の意見に対する確信が揺らぐことがあるのも、また事実です。

 

繰り返しになりますが、指揮官が戦闘前に定石(原理原則)を踏まえて戦争の計画を立てたとしても、現実はその通りに流れないことがほとんどです。もともとの計画と現実のあいだには、論理的な分析では埋めがたいギャップ(間隙)が生じることも珍しくありません。そして、そのような状況下では、もともとの戦争計画を変更する誘惑に駆られてしまうのも無理のないことだといえるでしょう。

しかしそうした場合においても、従来の方針を変更することが是であると言い切れない限り、最初の「原理原則に従った意見」を変えてはならないというのがクラウゼヴィッツのスタンスです。いかに強烈な印象(危険や重い責任など)が襲いかかろうとも、将帥は原理原則に忠実な意見こそ真実であると堅く信じ、それを貫かなければならないのです。

 

以上が、将帥に関連する人間的な特性についてのクラウゼヴィッツの考察です。