たまには真面目な話でも。ゲームばかりしてないよアピール(誰に)
仕事柄、食中毒については敏感なのですが、少し前に「ステーキ肉はO157食中毒の心配はない」という話をどこかで見かけまして。夏は食中毒*1が多い季節ですから、そういう話題がネット上で散見されたのだと思います。
ただ、厚生労働省の食中毒統計資料では、O157食中毒の原因食品として「ステーキ」と明確に書かれている箇所があるんですよね。
発生 年月日 |
発生 場所 |
原因食品 | 病因物質 |
---|---|---|---|
14/05/23 | 新潟県 | 加工食肉ステーキ | 細菌-腸管出血性大腸菌(VT産生) |
14/05/31 | 福井県 | 加工食肉(ヒレステーキ) | 細菌-腸管出血性大腸菌(VT産生) |
14/06/06 | 新潟県 | ヒレステーキ | 細菌-腸管出血性大腸菌(VT産生) |
14/06/09 | 山形県 | ヒレステーキ | 細菌-腸管出血性大腸菌(VT産生) |
14/10/14 | 長野県 | 牛成形肉ステーキ | 細菌-腸管出血性大腸菌(VT産生) |
15/01/16 | 大阪府 | 鶏の造り5種盛り(ももタタキ、むね、砂ずり、心、肝)、レアつくねステーキ | 細菌-カンピロバクター・ジェジュニ/コリ |
15/01/23 | 神奈川県 | スタミナ丼、ステーキ丼 | ウイルス-ノロウイルス |
16/03/21 | 熊本県 | 3月19日に発生場所(飲食店)で提供された牛肉ステーキ(推定) | 細菌-カンピロバクター・ジェジュニ/コリ |
16/12/25 | 静岡県 | 牛グリルステーキ又はローストビーフ | 細菌-ウェルシュ菌 |
17/10/12 | 広島県 | 平成29年10月11日に提供した昼食(サイコロステーキ) | 細菌-サルモネラ属菌 |
17/12/10 | 大阪府 | 〔ハラミステーキ、鶏肉の塩焼〕(仕出し弁当) | 細菌-ウェルシュ菌 |
一方で厚生労働省は、生食用食肉(牛肉)の規格基準設定に関するQ&Aの中で「ステーキについては、これまでのところ腸管出血性大腸菌及びサルモネラ属菌を原因とする食中毒事例が報告されていない」と回答しています。
なぜこうした見解になるかといえば、ステーキは塊肉だから。
O157は牛肉の表面にしかいません。だから塊肉の場合、表面をしっかり焼けばO157食中毒を防げます。レアステーキを提供できる根拠の一つがこれですね。
余談ですが、生野菜(これもよく知られたO157感染症の原因食品です)を食べるときは、しっかり洗えばO157感染症を予防できると言われますが、ある畜産系大学の先生にお話を聞いたとき、
間違いじゃないんですけど、O157は発症に必要な摂取菌量が少ないので、洗浄はそこまで効果的じゃないです。
とおっしゃってました*2。
余談ついでに余談ですが、感染リスクの高い「生のまま」肉料理を提供している焼肉や生ハンバーグがNGじゃないのは、お客さんが焼くのが前提となっているからです*3。ただ、ある自治体の食品衛生担当者に話を聞くと、
危険であることにかわりはないので、なるべく控えてほしい。
と複雑そうでした。しっかり火を通した肉料理を提供してほしいというのが本音なのかもしれません。
話を戻しましょう。
なぜ過去にステーキ肉によるO157食中毒が発生しているのかといえば、おそらく成型肉ステーキだからだと思われます。
成型肉とは、簡単にいえば、いろんなお肉を集めて一つにして、形を整えたものです。詳しくはウィキペディアなりをご覧いただけましたら。
ja.wikipedia.org
つまり、それまでお肉の表面だった部分が、お肉の内部に入ってしまうので、すでにO157などが表面に付着していた場合、当該細菌が肉の中へ入ってしまうわけですね。当然このお肉の表面だけ焼いても、O157は減らせません(肉の中にいるので)
食中毒統計内でO157食中毒の原因食品となっている各種ステーキは、おそらく成型肉だと思われます。
ただ確証はなく、気になったので少し前に厚生労働省に電話して、
食中毒統計を拝見すると、ステーキが原因でO157食中毒が起こってるんですが、これはすべて成型肉ステーキという認識でよいですか?
と尋ねたのですが、
確認しないとわからないので折り返します。
とご回答をいただきました。
目下その確認をしていただいている最中です。仕事で至急に必要な情報でもないので急ぎで聞く必要なかったんですけど (聞かないといけないことではありましたが)、関心に負けたといいますか、官公庁一忙しい厚労省の職員さんに申し訳ないことしたなと・・・(ちなみに3〜4ヵ月くらい前の話)
以上、ステーキ肉もすべてが安全ではないですよという話でした。
食中毒は調べれば調べるほど本当に知らないことばかりで、変な言い方ですが面白いです。寝かせたカレーに潜む芽胞形成菌(ウェルシュ菌)の話とか、調べなかったら一生知らないまま終わっただろうな、と。
皆さんも、よろしければぜひいろいろチェックしてみてください。とりあえずこの本オススメです。ネットで無料で立ち読みもできます(学術書チックなんで、ちょっと難しいですけど)
とりあえずそんなところです。
眠いので、寝ます。
*1:正確には細菌性食中毒。ノロウイルスなどが原因のウイルス性食中毒は、冬に多く発生する傾向があります。国立感染症研究所「腸管出血性大腸菌感染症 発生動向調査」や「ノロウイルス検出状況」などのデータをグラフ化すると、年間の発生状況の違いがよく分かります。いつか時間があったらグラフ載せましょうかね。
*2:O157など腸管出血性大腸菌の発症菌量=発症に必要な食べる量は、11〜50個。ちなみにO157の分裂速度は、約17分だそうです。詳しくは農林水産省「リスクプロファイルシート」や、一般社団法人東京都食品衛生協会「顕微鏡写真で見る 微生物による食中毒」など参照のこと。一方、発症菌量の多いサルモネラなどは、食品洗浄も一定の予防効果を持つそうです。
*3:法律では禁止されていません。ただ店側がお客さんに分かりやすい形で注意喚起する義務はあります。