swatanabe’s diary

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反芻動物について

またまた、仕事の備忘録です。

以前、以下の記事で、奇蹄目が食べたものを腸内で発酵させるプロセスは、偶蹄目の反芻に比べてエネルギーの供給効率が悪いという話を書きました。

swatanabe.hatenablog.com

その具体的なメカニズムについてです。

 

 

反芻とは

簡単にいえば、飲み込んだエサを再び口に戻してまた噛むことです。この仕組みを持つ牛やヒツジ、ヤギなどの動物を反芻動物といいます。

草は消化が悪いため、草食動物は反芻によってエサを何度も咀嚼し、消化しやすくしなければいけません。

 

以下、牛を例に見ていきましょう。

牛には胃が4つあり、このうち第2胃が反芻を担います。

具体的には、飲み込んだエサは口から第1胃(ルーメン)へ流れ、そこで発酵・分解されます。そのあと第2胃へ流れ、反芻によって口へ戻され、再び咀嚼に回されます。

こうして咀嚼→発酵・分解→反芻→咀嚼→……のサイクルを繰り返し、エサを消化しやすくします。

 

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牛の主なエサである粗飼料(草)は、消化がとても悪いため、反芻によって何度も噛み砕いて消化しやすくする必要があります。

 

反芻しない草食動物もいる

牛が反芻を必要とするのは、草に含まれるセンイ質の消化が悪いからでした。

しかし、同じ草食動物のウマやウサギは反芻動物ではありません。

なぜ彼らは反芻を必要としないのでしょうか?

 

これは動物たちの体重や体の大きさと密接な関係があります。

その説明の前に、ひとつ予備知識をお伝えしておきます。

 

前胃発酵動物と後腸発酵動物について

牛は消化管(胃や腸など食物の消化に関わる器官)全体の70パーセントを胃が占めています。これはほかの草食動物と比べて大きい割合です。

 

  相対的な容積割合(%) 体長比
小腸 盲腸 結腸・直腸
ウシ 71 18 3 8 20:1
ヒツジ・ヤギ 67 21 2 10 27:1
ウマ 9 30 16 45 12:1
ブタ 29 33 6 32 14:1
イヌ 63 15 16 5 6:1
ネタ 69 15 16 5 0.6:1

祐森誠司「愛玩動物の後腸栄養について」(ペット栄養学会誌 16巻 1号 2013)より引用

 

反芻動物(ウシ、ヒツジ、ヤギ)や肉食のイヌやネコは胃が大部分を占める一方、草食動物ではあっても非反芻動物のウマ、そして雑食のブタは、結腸・直腸の比率が高くなっています(ちなみに、表中に大腸がないですが、盲腸と結腸・直腸を合わせて大腸と呼びます)

体長比は、消化管全体の長さが体長の何倍かを表したもので、牛の場合、実に20倍にもなります。

ここで違いがわかりやすい牛と馬を抜き出して、生態を比較してみましょう。

 

  ウシ ウマ
複数ある(複胃) 1つしかない(単胃)
反芻 する しない
胃の役割 食物の発酵・分解 食物の消化
発酵 胃で発酵させる 腸で発酵させる

 

馬の胃は人間と同じで、食べた物を消化する本来の消化器の役割を持っています。

一方、牛の胃(厳密には第1胃=ルーメン)は、食べたものを消化ではなく発酵・分解します(消化を行うのは第4胃)。牛の第1〜3胃は、もともと食道だったものが形と機能を変えた器官のため、消化作用を持っていません。

また、馬も食べたものを発酵・分解しますが、それは腸で行われます。

 

牛のように、消化機能を持つ消化管(第4胃)より前にある消化管(第1胃)で発酵を行う動物は「前胃発酵動物」、馬のように後ろの消化管(腸)で発酵を行う動物は「後腸発酵動物」と呼ばれます。さらに後腸発酵動物は、盲腸で発酵を行う「盲腸発酵動物」と、結腸で発酵を行う「結腸発酵動物」に分かれます。

まとめると、以下のような感じです。

 

前胃発酵動物 本来の消化機能を持つ消化管より、前の消化管に微生物を住まわせて発酵を行う動物。
後腸発酵動物 本来の消化機能を持つ消化管より、後ろの消化管に微生物を住まわせて発酵を行う動物。
  盲腸発酵動物 盲腸に微生物を住まわせて発酵を行う。小型の後腸発酵動物に多い。
結腸発酵動物 結腸に微生物を住まわせて発酵を行う。大型の後腸発酵動物に多い。

 

体の小さな動物ほど、発酵・分解から得られるエネルギーが少ない

センイ質は牛にとって、主なエネルギー源・栄養源です。しかし消化がとても悪く、何度も咀嚼しないと細かくなりません。

そのため牛は、1日の半分以上の時間、反芻しています。また牛の消化管は体長の20倍もあり、食べた物をできるだけ消化管(ルーメン)の中にとどめ、少しでも長い時間をかけて反芻と発酵・分解を行えるようになっています。

 

反芻動物が発酵・分解を行う消化器(牛ならルーメン、馬なら腸)は発酵タンクと呼ばれます。これについては次のことがわかっています。

  • 発酵タンクの容量と体重は比例する。つまり、体重に占める発酵タンク容量の割合は、大動物(牛やウマなど)も小動物(ウサギなど)も同じ。
  • 発酵タンクの容量によらず、発酵の効率は一定。つまり、発酵タンクの容量にかかわらず、単位時間あたりのエネルギー供給効率、単位体重あたりのエネルギー供給量は一定。

そして、体の小さな動物ほど、単位体重あたりのエネルギー要求量が増えることもわかっています。

この3点を踏まえると、次のことが言えます。

  1. 体の小さい動物ほど、単位体重あたりのエネルギー要求量が多い
  2. 発酵タンクは、その容量に関係なく、単位体重あたりのエネルギー供給量が一定
  3. つまり体の小さい動物ほど、発酵によるエネルギー供給に頼ることができない

 

たとえば、ウサギのような体の小さい動物は発酵タンクが小さい=エサを発酵・分解できる時間が短いです。そのため、発酵では十分なエネルギーを確保できません。

ですが、前述のように、ウサギは体が小さいのでエネルギー要求量が多いです。よって発酵以外の手段でもエネルギーを作らなければいけません。

 

そのためウサギは、発酵前に胃からエネルギー・栄養を摂取する仕組み(=後腸発酵)と、食糞という習性を持っています。

ウサギは自分の糞を食べることが知られていますが、これは取り損ねたエネルギーと栄養を摂取するための行為です。腸内で発酵・分解しきれなかった食物の残りである糞には、エネルギーや栄養成分が豊富に含まれています。

 

ウサギは、一度の発酵・分解ですべてのエネルギー・栄養を生成して取り入れる牛のようなスタイル(前胃反芻)では生きていけません。そこで、発酵タンク以外にもエネルギー・栄養を摂取する仕組みを持つスタイル(後腸反芻+食糞)に進化したのです。

 

参照