すべての学校がそうなのか分からないのですが、うちの姪っ子は先生に「縦書きは漢数字」と教わったようです。だからか、このあいだ家の新聞を目にしたとき「なんで新聞は、縦なのに20って書いてるの?」と疑問を持っていました。
最近、紙の新聞を読まないのですが、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、日本経済新聞で画像検索をかけると、どうやらいずれも算用数字を使っているようです。東京新聞は見出しのみ算用数字 (おそらく字数の関係?)、本文中は「%」がつく場合や寄稿文書などの例外を除いては漢数字 (年号など) といった感じでした。
ほかは調べていないので新聞業界全体の潮流は分かりませんが、少なくとも大手は「縦書きでも算用数字」と見てよさそうです。
さて、そんな時代にあって「縦書きは漢数字」という教育は、果たして意味があるのでしょうか。
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筆者は、記事 (横書き) やラノベ (縦書き) を書くとき、数字は漢数字と算用数字を併用しています。使い分けの基準は『記者ハンドブック』(以下、記者ハン)に則りつつ、ケースバイケースで判断という感じです。
本書は、共同通信と加盟新聞社の共通ルールとして用意された用語集で、漢数字と算用数字の使い分けについてまとめられた頁もあります。
ここには色々な細かい規定が書かれていますが、ざっくり言ってしまえば「数えられるなら算用数字、数えられなければ漢数字」が原則です。
つまり縦書きの新聞でも、すでに「縦書きは漢数字」というルールは、ケースバイケースなわけです。
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読みやすさの面から見た場合、縦書き・横書きを問わず、漢数字は好ましくないと思います。
たとえば「千二百三十四円」「一二三四円」「1,234円」を並べてみましょう。
例としてあまり適切な金額ではないですが、いったんこれで。個人的には算用数字が最も読みやすいのですが、皆さんはどうでしょう。
算用数字で書くと「漢字」と「数字」という、種類の違う文字が混合されるので、どこまでがひとまとまりか掴みやすいんですよね。ぱっと見て「1234」と「円」に分割できる。だから、すぐ「1,234円」と認識できます。
一方、すべて漢字だと、一瞥して「これは値段だ」と認識しにくいです。頭から一文字ずつ追わないと「1,234円」だと分かりません。
時間だと、どうでしょうか。
縦中横は算用数字だけで可能な表記のため、比較対象として不適ですが、ここでは「読みやすさ」の一点のみを軸に考えます。
こちらの場合も、筆者が最も読みやすいのは、一番左の縦中横スタイル。次が隣の全角算用数字の縦並びです。漢字オンリーの表記では、やはり要素の切れ目がわかりにくいため、このひとまとまりを「時間」だと認識するのが、算用数字バージョンより遅れます。
ちなみに、年齢や年号、スポーツ欄の得点など、そのほかの数字も算用数字のほうが読みやすいです。
新聞の文面は基本的に漢字や "かな" が多いので、漢数字で書かれると文面に埋もれてしまうんですよね。だから、そもそも漢数字を見て「数字が書かれている」と認識するのも大変で、そこからさらに「具体的にどんな数字なのか」を認識しなければいけません。つまり書かれている内容を理解するまでに、2段階の工程が必要です (もちろん実際に読むときは、そこまで考えながら読んでませんが)
朝日新聞さんの以下の記事の冒頭を、算用数字と漢数字で書いた画像を用意しました。
(朝日新聞「帰国者の入院、12人に 症状ない2人が検査に同意せず」の冒頭より)
右側と左側を見比べると、左はパッと見てどこに数字があるかひと目で分かりますけど、右側は分かりにくいです。この違いは読みやすさにも影響を及ぼします。
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ところで、2つ前の段落(縦中横は〜)をご覧ください。
筆者は「一点」と書きました。ここはなぜ漢数字かというと、算用数字だと違和感があるためです。1点と書くと「得点としての1点」のように思えて、単に一つのものを指す「一点」の代用とするには違和感が拭えません。
このように「感覚的に漢数字のほうが向いていると思う」単語については、縦書き横書きを問わず漢数字を使います。
この「感覚」がけっこう厄介でして、毎回「これは漢数字」「これは算用数字」と決まる単語もあれば、ケースバイケースで切り替える単語もあります。
たとえば「二人」という単語は、どんな場合も「二人」と書きます。「2人」とは書きません。これは「ふたり」と特殊な読み方をする影響です。「2人」でも「ふたり」とは読めますが、しっくりきません。2は「数字」なので、送り仮名が切り替わるものではないという感覚があります。
この「常に漢数字を用いる単語」の特徴としては、
- 読み方が特殊な単語 : ex. 一つ (ひとつ)、二人 (ふたり) など
- 変えようがない単語 : ex. 三日天下、五臓六腑など
- フィーリングで漢字にしたい単語 : ex. 一歩など
この3つです。
逆にいつも算用数字で書くのは、年月日や時間、年齢などですね (列挙すると限りがないので割愛します)
ちなみにNHKさんは、
- 決まり文句やその数以外には置き換えられない場合は漢字を使う。
- 数を数えるような場合で数字がほかの数字に変わることがありうる場合は算用数字を使う。
- 「ひとつやってみよう」「ふたつながら」など副詞として使われる場合はひらがなを使う。
(NHK放送文化研究所「ものを数え上げる場合「ひとつ、ふたつ、みっつ」などを「1つ、2つ、3つ」と書いてもいいだろうか」より)
という社内ルールを敷いているようです。2019年12月の情報なので、おそらく今もそうではないかと思います。先の「ふたり」でいえば、NHKさんは「2人」と表記するわけですね (数えられるので)
一方、ケースバイケースで切り替わる単語もあります。
たとえば「二度」という単語。まず、次の2文をご覧ください。
- もう二度と戻らない、平穏な日々
- 失態は、これで2度目だ
これは記者ハンのルールに則った書き方ですね。前者の「二度」は数えられないので漢数字です。「もう三度と」とは言いませんよね。対して、後者は「3度目だ」「4度目だ」と数えられるので、算用数字で書いています。これは縦書きでも横書きでも変わりません。
ただ、記者ハンのルール関係なく、なんとなく使い分けている単語もあります。建物の階層の「一階」などが、これに該当します。自分の書いたラノベを見返すと、なんでか「1階」と書いている箇所と「一階」と書いている箇所があります。仕事の記事 (横書き) では算用数字で統一しますが、ラノベ (縦書き) を書くときは使い分けます。
分けている理由は自分自身よく分かりません。おそらく前後の文脈や使われている表現の並びから判断しているのだと思います。ただ、いま読み返しても、感覚的にしっくりくるだけで、それがうまく言語化できません。
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おそらくここまで筆者が書いてきた内容を「そうそう」とご覧いただけた方もいれば「いやいや」と感じた方もいらっしゃるでしょう。
でも、それでいいわけです。漢数字と算用数字のどちらがしっくりくるかは個人によって違います。プロの間でも違います。だから自由に書いていいし、仕事では寄稿するメディアのルールに合わせればいいだけです。
ちなみに、以下の論文をご覧いただくと、記者ハンを作ってきた皆さんが、一つの表現を巡って「こう書くべきだ」「いやこうだ」と紛糾してきた様子が垣間見えます。
成川 祐一「正しく伝わる日本語のために:共同通信社記者ハンドブックの成り立ち」情報管理 60巻 2017-2018 2号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/60/2/60_69/_pdf/-char/ja
それなのに、明確な理由もなく、学校で紋切り型に「縦書きは漢数字」と教えるのは、正直「どうなんだろうなぁ」と思わざるを得ません。
どうにかなりませんかね、このへん。
とりあえず、そんなところです。
眠いので、寝ます。