swatanabe’s diary

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電子レンジが物を温める仕組み

いきなり何事かと思われそうなタイトルですが(笑)、ちょっと仕事で調べた備忘録までに。一人暮らしの便利アイテム・電子レンジの原理についてです。別に面白い話ではないです。

 

 

電子レンジの定義

電子レンジは、マイクロ波という電磁波を利用した家電です。電波法では、2,450メガヘルツ(正確には2,400〜2,500メガヘルツ)の電磁波を使って食品を加熱する加熱機器として定義されます。

(ヘルツ: 1秒間に電波が何回振動しているかを表す単位。表記はHz。2,450メガヘルツは、秒間24.5億回、振動するという意味)

 

電子レンジは、この周波数帯の電磁波(マイクロ波)を使った「誘電加熱」という方法で食品を加熱します。

電気を使った加熱には、誘導加熱や誘電加熱、赤外線加熱など色々な種類があります。このうち誘電加熱は、マイクロ波で食品中の分子(水分子)を動かして、食品を内側から温める方法です。

 

極性分子と無極性分子

では、水分子はいったいどのように動くのでしょうか。

その前に、事前知識として、極性分子と無極性分子についてまとめておきます。

 

中学の理科で、原子は陽子と電子を持っていると習ったのを覚えているでしょうか。陽子はプラスの電荷を、電子はマイナスの電荷を帯びています。電荷は、磁石のS極とN極のようなものだと思ってください。

たとえば、水素原子(H)は、陽子と電子を1個ずつ持っています。これが塩素原子(Cl)とくっつくと、塩素原子の電子を引っ張る力のせいで、水素原子は電子を取られてしまいます(分子中では、原子が互いの電子を引っ張り合います。引っ張る力の強いほうに電子が渡されます)。この時、マイナスの電荷を持つ電子を失うことで、水素原子は陽子の持つプラスの電荷を帯びます(H+)

 

水分子で考えてみましょう。

水分子は、水素原子2つと酸素原子1つ(陽子と電子を8個ずつ持つ)がくっついた分子です。電子を引っ張る力は酸素原子のほうが強いので、水分子の中では、水素原子はプラスの電荷を帯び、酸素原子はマイナスの電荷を帯びます。

 

このとき、水分子は極性分子というものになります。

分子は結合の仕方によって極性分子と無極性分子に分かれます。下の画像をご覧ください。

 

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水分子を作るとき、水素原子は上図のように、酸素原子に斜めに結合します。そのため電荷の重心位置(右の群青丸と水色丸)がずれ、プラスマイナスが打ち消し合わず、分子中にプラスの部分とマイナスの部分が生まれます。

 

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こんな感じに、水素原子側がプラス、酸素原子側がマイナスになります。

一方、無極性分子とは、電荷の重心がずれない=プラスとマイナスが打ち消し合う形で結合した分子です。二酸化炭素(CO2)の分子構造を見てみましょう。

 

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CO2は上図のように、電荷の重心(右の群青丸)が一致するため、水分子のような電荷の偏り(極性)が存在しません。

 

電磁波を当てたときの水分子の動き

では、この水分子に電磁波(マイクロ波)を当てると、どうなるのでしょう。

 

その前に、そもそも電磁波とは何かを見ておきましょう。

電磁波は、名前の通り「電場」と「磁場」を発生させる電波で、次のような構造をしています。

 

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撒いた砂鉄の中に棒磁石を置いた時、S極からN極へ弧を描く磁力線が現れますよね。あれが磁場です。電場はあの電気版だと思ってください。磁場でS極とN極にあたるものが、電場ではプラスとマイナス、磁力線にあたるものが電流です。

 

食品中の水分子は、一様に同じほうを向いているわけではありません。すべてバラバラです。

ですが、電磁波を当てて電場の中に置かれると、場の電流の流れとは逆を向こうとします。以下の図のようなイメージです。

 

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左が電場のない状態の食品中の水分子、右が電場に置かれた状態の食品中の水分子です。水分子は電場のマイナス側にプラス側を向けるように回転します。これによって、食品全体が一定の極性=誘電分極を持ちます。

 

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この変化は電場をかけたと同時に発生するのではなく、少し遅れて起こります。よって、間を置かずに次々と違う電場を食品にかけると、水分子たち(正確には誘電分極)はやがて、電場の変化についていけなくなる=向きを変え切れなくなります。

電場の変化についていこうと向きを変え始めたものの、すぐに違う電場がやってきて違う動きを要求され、それまでの動きにブレーキがかかる、そんなイメージですね。

 

この時、方向の向き変えに使われていたエネルギーが散逸して発散されます。これが熱となって分子から放出されます。この熱を利用して食品を温めるのが電子レンジです。

ちなみにマイクロ波が使われるのは、加熱に適したタイミングで電場が変化する波長を持っているからです。

 

なお、時おり「マイクロ波で水分子を振動させ、分子同士をぶつけて発生した摩擦熱で温める」という説明を見かけますが、これは誤りです。マイクロ波を当てても水分子は振動せず(振動するのは誘電分極)、熱として利用されるのは分子同士の摩擦熱ではなく、電場の変化についていけなくなったことで発散されるエネルギー。

 

電子レンジによる加熱が効果的な食品、そうでない食品

電子レンジは食品に全方位からマイクロ波を当て、内部の水分子の動きを利用して熱を加えていきます。内部から温めるので、体積のある食品でも普通に加熱するより早くしっかり加熱できるのが特徴です。

ただ、その効果は食品によって違います。具体的には、

  1. 食品にどのくらい水分が含まれているか
  2. 加熱によって食品にどんな変化が起こるか
  3. 液状食品の場合、液体が対流するかどうか

この3点から判断するのが良いようです。

1. 食品にどのくらい水分が含まれているか

牛肉などの水分を多く含む食材は、電子レンジでまんべんなく加熱できます。一方、乾燥食品(チーズなど)のような水分が少ない食品は、加熱むらが起こる可能性があるので気をつけましょう。

また、電子レンジによる誘電加熱は、水分子が向きを変える動きを利用してエネルギー=熱を生み出します。よって、水分=水分子が少ない食品は、熱が食品全体に行き渡らない恐れがあります。

2. 加熱によって食品にどんな変化が起こるか

食肉製品などのタンパク質を多く含む食品は、熱を加えるとタンパク質が固まって水分が抜けます。そのため加熱時間が長くなるほど、加熱効果は落ちていきます。

一方、小麦粉などを材料とするデンプン質の多い食品は、加熱すると空気中の水分を吸収して膨らんでいきます。そのため加熱効果が高まります(ただ、あまり加熱し過ぎると、破裂して組織が壊れてしまいます)

3. 液状食品の場合、液体が対流するかどうか

大抵の液体食品は、対流によって熱が食品全体にまんべんなく行き渡ります。ただ、粘性の強いネバネバした液体食品の場合、対流が起こりにくいため、加熱むらを起こす恐れがあります。

 

電子レンジは加熱でも死滅しない芽胞形成菌を殺菌できる

電子レンジは通常の加熱殺菌より食品中の細菌を死滅させる効果が高いことがわかっています。特にセレウス菌など、加熱殺菌が効かない細菌を死滅させられるのも大きな特長です。

 

セレウス菌とは、芽胞形成菌と呼ばれる食中毒細菌の一種です。

この細菌は芽胞(がほう)と呼ばれる細胞組織を形成します。これは自分が危機的状況に置かれた時、身を守るために作る鎧のようなものです。非常に熱に強く、セレウス菌の芽胞は100度で30分ほど加熱しても壊れないとされます(通常、食中毒予防で必須とされる加熱条件は、中心温度75度・1分以上の加熱です)

こうした芽胞形成菌には、他にウェルシュ菌やボツリヌス菌などがあり、いずれも加熱殺菌ができません。

 

ですが、ある論文が行った実験(生理食塩水に浮かべたセレウス菌を電子レンジで加熱し、殺菌効果を検証)の結果、100度・90秒の加熱で芽胞状態のセレウス菌の殺菌(1グラムあたり10個以下になった状態)が確認されました。

こうした報告は複数上がっており、電子レンジは通常の加熱調理では太刀打ちできない強力な食中毒細菌の殺菌に効果的といえます。また加熱が短時間で済むので、熱に弱い栄養・食味成分を残せて食品のおいしさを保てるのもメリットです。

 

ただし、殺菌効果は食品の状態によって変わるので注意しましょう。たとえば、食品のpHや塩分濃度の影響を受けます(酸性の食品は、アルカリ性の食品より時間がかかります)。ほかに細菌の繁殖状況なども影響すると考えられています。 

また、先の「電子レンジ加熱が向いているかどうか」の判断基準3つも踏まえておかなければいけません。これらでネガティブな方向に該当する食品の場合、加熱・解凍に電子レンジを使うと、加熱むらによって十分な殺菌効果が期待できない可能性があります。他の加熱法にしたり、時おり混ぜながら加熱したり、冷凍した食品の場合は冷蔵庫で解凍してから電子レンジで加熱したりするといった工夫が必要です。

 

参照