先日、知人が「骨粗しょう症の5年生存率って実はがんより低いんだよ」と教えてくれました。ある医療系雑誌で読んだらしいです。
で。興味深い話だったので、ちょっと調べてみたのですが、どうやら知人はキャッチな部分だけ記憶に残っていた模様で、実際の内容はけっこう違いました。
5年生存率とは
その病気だと診断された人が、5年後に生きている割合。国立がん研究センターによれば、
あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体*で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかで表します。100%に近いほど治療で生命を救えるがん、0%に近いほど治療で生命を救い難いがんであることを意味します。
とあります*1。
がんの5年生存率は、全部位で62.1パーセント
まず "がん" の5年生存率ですが、これは部位によって違います。
全部位 | 62.1% |
口腔がん・咽頭がん | 60.2% |
食道がん | 37.2% |
胃がん | 64.6% |
大腸がん | 71.1% |
肝および肝内胆管がん | 32.6% |
胆のうがん・胆管がん | 22.5% |
膵臓がん | 7.7% |
喉頭がん | 78.7% |
肺がん | 31.9% |
皮膚がん | 92.4% |
乳房がん | 91.1% |
子宮がん | 76.9% |
子宮頚部がん | 73.4% |
子宮体部がん | 81.1% |
卵巣がん | 58.0% |
前立腺がん | 97.5% |
膀胱がん | 76.1% |
腎がん・尿路がん | 69.1% |
脳・中枢神経腫瘍 | 35.5% |
甲状腺がん | 93.7% |
悪性リンパ腫 | 65.5% |
多発性骨髄腫 | 36.4% |
白血病 | 39.2% |
膵臓がんが圧倒的に低いのは、膵臓自体が他の臓器の陰に隠れていて早期発見が困難な影響だと消化器内科の先生に聞いたことがあります。
ちなみに同報告によれば、がんの進行度によって5年生存率は変わります。全部位のステージ別データだけ引用しますと、
限局 | 90.4% |
領域 | 55.1% |
遠隔 | 13.6% |
遠隔段階(原発臓器からかなり遠くの臓器やリンパにまで転移している段階)まで進行してしまうと、5年生存率は10〜20パーセント程度。最も高い前立腺がんでも49.1パーセントでした。ちなみに最も低いのは膵臓がんで、わずか1.3パーセント。
男女別に見ると、女性の全部位の生存率が66.0パーセントに対して、男性は59.1パーセントとやや低め。部位別の違いはほとんど見られませんが、肺がんが男性27.0パーセントに対して、女性が43.2パーセントと15パーセント近く開いていたのが興味深かったです。
60歳以上の大腿骨近位部骨折患者の5年生存率は、45.6パーセント
一方、大腿骨近位部(頚部および転子部)骨折はどうでしょう。
(大腿骨近位部骨折とは、ざっくり言えば、太ももの付け根が折れる骨折です)
日本整形外科学会などが監修した「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン」には、次のような記述があります。
- 65歳以上の頚部転子部骨折450例の検討。1年未満の死亡率10.7%であった。予後関連因子は年齢、術前認知症、退院後世帯状況(同居、別居)、術後歩行能力、術後合併症の有無であった。
- 受傷後5年以上経過した60歳以上の大腿骨近位部骨折患者534例(男性92例、女性342例、平均年齢82.1歳、頚部骨折188例、転子部骨折246例)を調査した結果、受傷後1年の生存率は91.9%、5年以上生存したものは45.6%。受傷後1年では実際の生存率と期待生存率には差がないが、3年目以降は有意に低下していた。
- 転子部骨折563例について調べたところ、術後最初の1年間での死亡率は18%で10年では74%であった。術後の死亡率は受傷時の年齢が高く、入院期間が長く、男性、受傷前の移動能力が低いほど高い傾向がみられた*2。
またほかのエビデンスを見ると、治療内容(術式や使用した麻酔など)の違いなどによっても、生存/死亡率は変化するようです。
引用2番目のエビデンスを見ると、60歳以上の大腿骨近位部骨折(頚部・転子部骨折)患者の5年生存率は、45.6パーセント。確かに多くのがんの5年生存率より低いことがわかります。
骨密度のピークは20〜30代で、あとは下がり続けるだけ
日本整形外科学会によれば、大腿骨頚部骨折の原因の代表格は骨粗しょう症*3。同骨折の罹患者に高齢者が多いのも、骨密度が低下してしまい、軽い衝撃でも骨が折れやすくなっているからだそうです。
中には気づかないうちに背骨が折れて(潰れて)いるケースもあるのだとか(圧迫骨折など)。俗に言う「いつの間にか骨折」というやつですね。
骨粗鬆症の診療ガイドラインによれば、日本では骨密度が70パーセントを下回ると骨粗鬆症と診断されます。
具体的には脆弱性骨折のある例では骨密度が若年成人平均(youngadultmean:YAM)の80%未満、脆弱性骨折のない例ではYAMの70%未満を骨粗鬆症とする診断基準を設定した*4。
ちなみに脆弱性骨折とは、転ぶ・机に手をつくなどの何気ない動作で「ポキッ」と骨が折れてしまう骨折のこと。
同ガイドラインによると、骨粗しょう症になる要因としては、
- 若いころの不十分な最大骨量
- 閉経によるエストロゲン欠乏
- カルシウムやビタミンD、Kの欠乏とそれによる副甲状腺ホルモンによる骨吸収作用の亢進
などが挙げられています。
1について。
骨密度のピークは20〜30代で、あとは下がり続けるだけだそうです。そのため20〜30代に絶食などによる無理なダイエット、偏食、運動不足などで骨密度が低下していると、将来それだけ骨粗しょう症にかかるリスクが高くなってしまいます。
(画像引用:武田コンシューマーヘルスケア株式会社「骨密度(骨量)の減少について」より)
2について。
エストロゲンには骨からカルシウムが溶け出す作用(骨吸収)を防ぐ働きがありますが、閉経後はエストロゲンの分泌量が減ってしまうため、骨粗しょう症のリスクが高まるそうです。
3について。
骨は古い部分を壊して(骨吸収)、そこに新しく骨をつくる(骨形成)という新陳代謝を行っています。カルシウムやビタミンD、Kの欠乏は、この骨形成の働きに不全を来して骨吸収ばかりが進んでしまうため、骨密度が下がってしまいます。
*
とりあえずそんなところです。
眠いので寝ます。
*1:国立がん研究センター「がん統計の用語集 - 5年相対生存率」より。
*2:Mindsガイドラインライブラリ「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン 改訂第2版」より。第6章 6.7. および 第7章 7.7. 参照。